欅坂46、次回作はどのような楽曲に? グループの“今”が反映されたシングル曲を振り返る

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 欅坂46の8枚目のシングルの発売から5カ月近くが経ち、次回作への期待が高まっている。そこで今一度これまでの作品について振り返っておこう。

 

 欅坂46の楽曲、特に”歌詞”については、しばしばその時々のグループの状況が反映され、中でも若者の心の葛藤を描いたようなテーマは彼女たち自身もまるで自分たちのことを歌っているかのように共感できるのだという。メンバーの長濱ねるは、2018年に放送されたラジオ番組『今日は一日”秋元康ソング”三昧』(NHK-FM)にて以下のように答えている。

「なんでこんなに私たちのこととか、私たちが口に出してない気持ちが見透かされているというか、分かるんだろうって。私たちが直面してる問題その通りの歌詞が来て。だから毎回”手紙”みたいだなと思って……」

 この”手紙”という表現について、欅坂46楽曲のすべての作詞を手がけてきた秋元康は頷くようにこう続ける。

「たとえば、普通の女の子がこれだけ有名になると、言われなき中傷とかに傷ついたりすることも多いじゃない。ネットに書かれたりして。そういうものに対して、気にしなくていいんだよっていう意味を込めて……たとえばそれが”僕”という言葉で書く場合は僕自身でもあるし、応援してくれるファンのことでもあるし、スタッフのことでもあるんだけど、それが〈悪意からの避雷針〉になるよっていう。「避雷針」の頃って、みんなネットのことが気になったり、傷ついた時期だと思うんですよね。だから、”避雷針”という言葉を使って(欅坂46へ向けて)”手紙”を書こうかなと思ったんですよね」

 欅坂46の歌詞が注目されるとき、”大人に対する反抗”や”社会的なメッセージ性”という言葉で語られることが多い。しかし、その根本にあるのはメンバーたちがグループ活動を通して抱く悩みであったり、それぞれが抱え込んでいる感情といった、非常に”パーソナル”なものだったりする。それゆえに彼女たちも与えられた歌詞に共感しながら歌うことができるのだ。歌詞を読んだメンバーが思わず涙したというエピソードもあり、いかに歌詞がグループの状況やメンバーの精神状態と密接に絡んでいるのかが分かるだろう。

 同番組で秋元康は、彼女たちには「不思議なバリアがある」とも指摘。他のグループと比べて欅坂46はLINEで返事をしてくるメンバーが少ないなどのエピソードを例に挙げ、彼女たちがスタッフたちに対し(秋元自身に対しても)どこか壁を作っているような雰囲気を、むしろ面白く感じていると話す。彼女たちが外に出さない”内に秘めたる”ものがある様子を、逆に楽曲や作品として昇華しようとしているというのだ。それは、その後発売されていく各メンバーの個人写真集に『饒舌な眼差し』や『無口』といったタイトルが付けられていることや、『感情の構図』『潜在意識』といったように、写真集でありながらもその人の精神的な部分をアピールするような、彼女たちの”内面”の魅力が押し出されている点からもうかがえる。

 デビューシングル曲「サイレントマジョリティー」はまさにそんな彼女たちに相応しいテーマであった。あまり自分から主張しない、喋ろうとしない彼女たちに対して、おそらくはある種の”背中を押す”ようなメッセージソングを意図して作られている。〈大人たちに支配されるな〉〈声をあげない者は賛成していると〉といった歌詞は確かに社会的な意味合いを帯びているが、それ以前にそれは、彼女たちへのささやかな”手紙”として、その後に長く続いていくグループ活動への決意や行動を促す助言的な目的として歌詞が渡されている。

 その後、2枚目の「世界には愛しかない」では、まるで前曲で決意した少女たちが走り出したかのように、爽やかな疾走感を振り撒きながら詩を朗読する姿が描かれた。同年発売の3枚目「二人セゾン」になると時の流れを受け入れ、儚さを噛み締めて歩く少女像が繊細なサウンドとともに表現される。「サイレントマジョリティー」からちょうど一年経ってリリースされた「不協和音」では、デビュー時のテーマを突き詰めて”その先”を描いたような楽曲になっている。〈Yesでいいのか/サイレントマジョリティー〉に対しての〈僕はYesと言わない〉、〈No!と言いなよ!〉に対しての〈僕は嫌だ〉であり、まるで「サイレントマジョリティー」で与えられた任務を遂行するかのごとく、力強く戦う主人公が表現されていた。

 その後、深く考えずに生きていこうというような軽快なリズムを持ったダンスナンバー「風に吹かれても」、メンバーたちへの強烈な応援歌としての「ガラスを割れ!」、集団との距離感に悩む主人公の葛藤を描いた「アンビバレント」と楽曲は様々なテーマに取り組んでいく。特に「アンビバレント」については、怪我や映画の撮影等でグループから離れていた平手友梨奈が活動に復帰するタイミングでありながら、同時にメンバーの卒業発表が相次いだ時期でもあったため、”集団”と”個”の間で揺れ動く感情を歌うのには強いリアリティがあった。それぞれ、その時その時のグループの状況に即したテーマと言葉で、より彼女たちが感情移入しやすい作品に仕上がっている。

 2019年に入り、これまでに培ったグループの特徴を色濃くする決定打とも言えるシングルを発表する。それが8枚目の「黒い羊」だ。集団生活の息苦しさ、社会の生き辛さ、人との距離感、仲間とのすれ違い……そうした言葉を歌詞に詰め込んだ難しいテーマを楽曲とパフォーマンスの力で見事に表現する。

 このように欅坂46の楽曲は、その時のグループの状況やメンバーの状態が非常に楽曲と強く結びついている。だからこそ歌い手も納得しながら歌えて、聴き手にも強く伝わってくる。今後待たれる次回作も、欅坂46のカラーを踏襲しつつグループの状況を反映した、深みを持ったものになるだろう。