100メートル9秒台で決勝進出は…サニブラウン、桐生、小池

朝日新聞出版
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 陸上の男子短距離界がかつてない活況を呈している。なかなか越えられなかった100メートル10秒の壁を、東京五輪を1年後に控えた現在、3人の日本選手が突破。誰が五輪の主役になるのか。

 現状で頭一つ抜けているのが、サニブラウン・ハキーム(米フロリダ大)だ。米国に留学して2年目の6月、全米大学選手権で9秒97の日本新記録を出した。同月末の日本選手権では100メートルを大会新記録の10秒02、200メートルを20秒35で制した。2冠を達成した後、サニブラウンはこう言った。

「(2冠は)2017年の自分にできたことなので、もっと強くなっている今年の自分にできないことはないと思っていた」

 日本陸上競技連盟の科学委員会の調べによると、持ち味のストライドは17年の日本選手権決勝より5センチ広がった。サニブラウンほどのレベルで5センチを伸ばすのは大変な作業。1秒間のピッチ数は17年より少し落ちてはいるものの、今年のサニブラウンと2年前のサニブラウンが一緒にスタートしたら、今年のほうが1秒あたり約8センチも前に出ている計算になる。

 100メートルの元日本記録保持者、朝原宣治さんが「正直、ここまでくる選手とは思っていなかった。成長に驚いている」と語るのが、小池祐貴(住友電工)。7月、世界の強豪が集まったダイヤモンドリーグ・ロンドン大会で、日本歴代2位タイの9秒98をマーク。日本選手3人目の9秒台を記録し、ベストを今季だけで0秒19も縮める躍進ぶりだ。

 身長173センチと短距離選手としては小柄だが、上下動のないピッチ走法が特長だ。慶応大学4年の2年前から走り幅跳び1984年ロサンゼルス五輪7位入賞の臼井淳一氏(61)の指導を受けるようになって大変身。常に余裕をもった練習で走りの感覚を研ぎ澄ますやり方がマッチした。

 6月末の日本選手権では200メートルで終盤、サニブラウンに食らいつく粘りの走りをみせた。7月のロンドン大会では、同学年で高校時代から常に後塵を拝してきた桐生祥秀日本生命)に先着し、自己記録でも肩を並べた。本人はあくまで200メートルに軸足を置いており、「100メートルはあこがれ、趣味的な気持ちが入っている」。「専門外」のリラックスさが好記録につながったか。

 17年に日本選手で最初に10秒の壁を破った桐生はどうか。今季序盤は10秒0台を連発するなど好調だったが、日本選手権以降はやや息切れの感じ。ただ、先行する選手がいても最後まできっちり走り切る技術とメンタル面が整いつつある。


 来年の東京五輪に向けては、9月末にカタールのドーハで開幕する世界選手権がひとつの指針になる。男子100メートルの出場枠は3。サニブラウンがすでに内定し、残りは桐生、小池の2人になる可能性が高い。五輪、世界選手権では1932年ロス五輪6位の吉岡隆徳以来となる決勝進出に期待がかかるが、そこは険しい道のりだ。世界を見渡せば、今年に入って9秒台を記録している選手がクリスチャン・コールマン(米)の9秒81を筆頭に日本人選手2人を含めて17人もいる。

 16年リオデジャネイロ五輪で銀メダルの400メートルリレーは、東京五輪でめざすところは金メダルしかない。サニブラウン、小池の台頭で層の厚さは格段に増した。リオ五輪山県亮太セイコー)、飯塚翔太(ミズノ)、桐生、ケンブリッジ飛鳥(ナイキ)から大幅にメンバーを入れ替えた7月のロンドン大会では多田修平(住友電工)、小池、桐生、白石黄良々(セレスポ)の4人で37秒78をマーク。今季世界2位の好記録で、東京五輪の出場もほぼ確実にした。

 ここにサニブラウンや山県らがどう絡むのか。9月末の世界選手権ではアンカーでサニブラウンの起用が予想されており、当面のライバル英国との差をいかに縮められるかが、注目だ。(朝日新聞・堀川貴弘)

週刊朝日  2019年8月16日‐23日合併号