京アニ火災33人死亡、失われた「アニメーターの憧れ」アニメ映画業界「影響は甚大」

 火災被害で多数の死傷者が出た「京都アニメーション(通称=京アニ)」(本社・京都府宇治市)は、東京一極集中と言われる日本のアニメ業界の中、京都から特色ある作品を生み出し続けていた。京都や滋賀の風景を物語に採り入れた「けいおん!」や「響け!ユーフォニアム」シリーズなどで知られ、太秦と並ぶ京都の映像文化の象徴だった。来年以降も公開を予告していた作品が続々と控えていただけに、アニメや映画業界からは「影響は甚大」との声が相次いだ。
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 「京アニは会社が一つの塊となってスタッフを育てながら、アニメを丁寧に作り上げていた。作品や監督ごとに混成スタッフを集めて作る東京発のアニメと全く異なる。日本でも希有な存在」。京アニの映画を配給する松竹の大角正映像本部長は語る。
 北宇治高校(架空)吹奏楽部の人間模様を描いた今春公開の映画「劇場版 響け!ユーフォニアム~誓いのフィナーレ」は興行収入約4億円のヒット。今月公開された「劇場版 Free!」も客足は上々という。近年では年間3~4本の映画を製作。9月には新作映画「ヴァイオレット・エヴァーガーデン外伝」、来年1月には同「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」の公開が決まっていた。
 大角映像本部長は「9月公開分は完成していたと聞いているが、来年以降の作品は予定通り公開できるとは考えづらい」としながら、「ジブリ東映アニメとは異なる独自スタイルでファンが手堅くいた。アニメは人力で作るだけに、これだけ有望なスタッフが多く亡くなると影響が見通せない」と困惑する。
 京アニは、日常のきらめきを繊細なタッチで描く高品質な作品が特徴で、京都のものづくりの「象徴」ともされる。1981年の創業時は下請けだったが、今では業界準大手に成長した。
 「京アニは今や、太秦に勝るとも劣らない京都の誇るスタジオ」と語るのは、京都文化博物館の森脇清隆・映像情報室長。火災に遭った第1スタジオにも訪れたことがあり、「全ての原画を鉛筆で手書きして、CGとは異なる魂を込めていた。日本中のアニメーターの憧れの場なのに…」と声を落とした。
 京アニの作品は、「けいおん!」など京滋の風景が登場する作品が多い。岡本健・近畿大准教授(観光学)は「関西を舞台に具体的な場所の背景を忠実に描くことで、2000年代後半以降にファンがゆかりの地を訪ね歩く“聖地巡礼”ブームの礎を築いた。新たな文化を生んでおり、この惨事による経済的な影響も計りしれない」と語った。
 2013年の作品「たまこまーけっと」のモデルになったのは、出町桝形商店街(京都市上京区)だった。商店街にあるミニシアター出町座の田中誠一支配人は「スタッフが取材によく来て、身近な存在で人ごとと思えない。支援する方法を考えたい」と話した。
京都新聞